病院との話のすすめ方

【延命治療拒否の概念】
終末期において、かつては患者の意思に関係なく、当たり前のように延命措置が行われていました。しかし近年では、延命措置をしたとしても、その後のQOL(生活の質)を望めない進行がんや重度の神経疾患の患者への対応を中心に、延命措置について本人が意思表示する動きが始まりました。そして、意識がはっきりしているうちに自分の受けたい、または受けたくない医療についての指示を出しておく「事前指示書・尊厳死宣言」の概念が生まれました。
具体的には、終末期に人工呼吸器装着、人工透析をするかどうか、物を食べられなくなった時に胃ろうをするかどうかといったことです。厚生労働省は、「終末期医療」を「人生の最終段階における医療」という表現に改めました。そこには、終末期医療に限らず、最期まで尊厳を重視した人間の生き方に着目した、最適な医療・ケアが行われるべきだという考え方が反映されています。
 
【厚生労働省・医師会が推奨するACP=人生会議】
ACPとは「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」の略です。直訳すると「アドバンス=事前の」「ケア=介護、看護」「プランニング=計画」です。将来の変化に備え、その時の医療やケアについて、本人を主体にその家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです。
医療や介護が必要になった時にどのように病気と向き合うのか、どのようなケアを受けたいのか、終末期にはどのような治療を望むのかといった、医療やケアのあり方です。
厚生労働省が定めた呼称「人生会議」という呼び名を、ニュースや雑誌で目にした方も多いと思います。
 
【大切なのは本人の意思】
人生の最終段階において、最も大切なのは本人の意思であり、医療やケアについても本人の意思が尊重されます。しかし、薬物投与、人工呼吸器装着、栄養補給などの措置が必要になったタイミングで、本人が正常な判断ができなかったり、意思を明らかにできないような状態になっていたりして、本人の意思を確認できないことがあります。
こうした場面で、ACPの考え方に基づき、家族親族や医療・ケアチームの中で本人の意思=事前指示書や尊厳死宣言書が共有されていれば、本人の意思を尊重することができます。しかし専門的な医学的措置について、患者が自分で考えて、事前に指示を出すのは難しい側面もありますし、また、最期の時に指示の内容が現状とそぐわないといったこともありえます。そんな場合でも、人生の最終段階をどう過ごすかを医療・ケアチームと話し合い、一緒に考えることができれば、決断に関与する家族の精神的負担も軽減できるのではないでしょうか。
 
【家族親族の精神的負担を減らす】
医学的措置についてAかBかの選択が必要になった時、本人の意思が確認できなければ、一般的には家族が医療スタッフと話し合ってその後の方針を決めることになります。しかし本人の価値観がわからない状態で決めなければならない状況は、家族にとって精神的な負担となります。本人が亡くなったあとも、「本当にAを選んでよかったのか」と自問自答し、落ち込んだり、後悔したりすることもあります。親戚などから選択について批判されることもあるかもしれません。しかしACPに取り組んでいれば、医療・ケアチームと話し合い、この人はこんな書面をのこし、こんな希望をもって生きてきたのだから、きっとAを選択するだろう、この人にとってはAを選ぶことが幸せだろうと推定できます。誰に何を言われようと、本人にとっての最善を選択できたに違いないと、家族も医療・ケアチームも決断に自信を持つことができるのです。
 
【こう話し合う】
命に関わるような病気になったり、余命がみえてきたりした時点で、人工呼吸器や輸血、栄養補給の方法、透析、看取りの場などについての希望を医療・ケアチームとともに話し合います。一般的には、今後のことでお話ししましょうと病院側から提案してくれます。事前指示書や尊厳死宣言書など、持参し意思表示をしましょう。病気や認知症により、本人が意思表示することが出来ない場合には、書面を提示し、本人の代わりに意思表示してあげてください。病院が話し合いの機会を提供しない、すぐに判断を迫られるようなことがあれば、家族親族から「話し合いの場を作ってください」と積極的に病院側に伝えてかまいません。医師に話しづらかったら、医療相談員(メディカルソーシャルワーカー)に相談するといいでしょう。